『and I love you...』のmims様より頂きました。

この作品はmims様によって書かれました。
無断転載、2次使用、盗作等は固く禁じます。








Those sweet words

2007 Xmas story

目覚めたら雨だった。
視線を外に向けた後に、ゆっくりと隣を見ると、愛しい男はすやすやと寝息を立てていた。
頬に掛かる黒髪を少し撫でると、私は窓ガラスに当たる水滴をじーっと見つめた。

身を起こし、外を眺める。

降り頻る滴が向かいの家の屋根や表に置かれたバケツや色々な物に当たって、
その度に様々な音階を奏でていた。

私はその時、雨の降る音に聞き惚れていた。
そして、頭の中ではシカマルと重ねてきた期間をぼんやりと回想する。

もう3年。
シカマルと私は同じ部屋で暮らし、同じ空気を吸って同じものを見て、
同じ苦しみと同じ喜びを分かち合いながら、ひとつのモノのようになった。
彼の考えていることはいつも、手に取るように分かるし、多分彼もそう。


言葉が無くても思想は重なっていて、ただの記号なんて必要なかった。
愛の言葉は無くても、瞳には愛の火が燈っていて、私たちはただ一緒に居ればよかった。



寝惚けた彼の腕が私の腰に回り、僅かに引き寄せられる。
その柔らかな圧迫感がとても心地よかった。


雨の奏でる複雑で優しい音階。
まるで何かの静かな曲みたいで、私はそれに気を取られていて・・・

すぐ傍で歌うように囁いたシカマルの声を、聴き取る事が出来なかった。


「・・してる・・・テマ・」


ねぇ、シカマル。今のは寝言?
何て言ったの?


愛の言葉なんて必要ないと思っていたのに、貴方の言葉が余りにも甘く響いて、
もう一度その音を聴きたくて仕方が無い。

素直に聞き返せない私に、もう一度言って?


「え?」


呟くように問うた私へ、返事は返ってこなかった。
彼の腕の力が、ギュッと強まったように感じたのは気のせいだろうか?

私は視線をシカマルへと定めたまま、その腕に促されるように彼の横に寝そべりながら、
もう一度問う。


「何か言ったか?」

「聞こえた?」


「はっきりとは聞き取れなかった」

「じゃ、良いや・・・明日、どっか出掛けるか」


「お前は出掛けたいのか?」

「まぁ、たまにはな。そこで、もう一回言ってやるよ」


そう言って、不敵な笑みを浮かべたこの歳下の男が、愛しくて堪らなかった・・・

彼の首に両腕を回しながら、私達は何度も唇を重ねあう。











午後のゆったりとした時間は、何も齎さずに過ぎていく。
静かに、ゆっくりと、穏やかに・・・


明日はクリスマスイブ。
でも多分、いつもと変わらない一日。

ただのいちにち。


いつの間にか空は更に暗くなり、雨の音は止んでいた。
代わりに降って来たのはひらひらと舞う白い欠片。

そして、控えめに部屋を満たすクリスマスソング。




一日の終わり、いつからか彼に擬えてそうするようになっていた、
ただの習慣のようにくわえた葉っぱに火をつける。

身体中の血液が頭に逆流してくる感覚を味わいながら、私はやっと日常の雑事から解放されて行く。
頭をぎゅーっと締め付けられ、少しだけ意識が遠のく。
その一瞬が、私にとっての生きている証のようで・・・

何の意味があるのか・・・
そんな事は分からない。

ただ、その感覚を味わうだけで、何となく満たされる。
いいえ、満たされるのではなくて、
ただ脳内が真っ暗で何も感じなくなるだけかもしれない。


「・・してる・・・テマリ」


甘い響きだけが頭に入り込むのに、言葉はちっとも聞き取れない。


ねぇ、シカマル。
何て言ったの?


「ん・・・?」

「やっぱ、聞こえてねぇんだな」


「何が?」

「じゃ、また明日。言うよ」


もうすぐ時計が一回りしちゃう。
今日が終わってしまう・・・

そして、

クリスマスイブがやってくる。


私の望んでいることは、あの言葉をもう一度聞きたいって、ただそれだけなのに・・・


言って?

素直になれない私を、シカマルは嫌い?


徐に彼の手首を掴むと、ベッドに誘う。
あと30分で今日が終わる・・・


空には暗い色の月が浮かんでいて、私はずっと眠れなかった。
一日1本だけと決めている煙草を、もう1本吸いたくなる。

シカマルもずっと眠れずにいるんでしょう?
私と一緒で。
今日が終わるまでに、どうしてもあの言葉を聞きたい。

ほら、外は真っ白な雪が降って、少しずつ世界をその色に染めていく。
まるで、しんしんと音が響いてくるような、そんな光景。
遠くから響くあの曲に乗せて、シカマルのその薄い唇から溢れ出す甘い響きを、
どうしても、どうしても聞かなくちゃ・・・


私たちは身体で優しく甘い会話を交わしながら、熱い吐息と共に途切れ途切れの言葉を紡ぐ。


「シカマル・・・もう一度、言って?」

「・・・あと少ししたらな。テマリ」


「今、聞きたい」


そう言った私の唇を優しく塞ぎながら、シカマルはそっと左手の指を絡めた。
握り締められた左手の指には鈍い痛み。

思わず顰めてしまった眉、漏れてしまった声。

私の様子を観察するように、少し意地悪な視線を向けたシカマルは、クククッと悪戯に笑む。
そんな表情すら、見蕩れてしまう私。


「メリークリスマス、テマリ」

「・・・!」




「愛してる、テマリ。結婚しようぜ」




今度は
聞こえた・・・




そっと解放された左手には、まあるい月を映して輝く小さな光。


「返事は?」


甘くて優しい彼の声。
背中から抱き締められ、感じる熱い胸の鼓動。
首筋に触れている彼の湿った唇。

私はただ涙を零して頷くことしかできない。



時計の針は0時ちょうどをさしていた・・・




merry christmas!!







fin [ those sweet words ]


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mimsさんの書かれるテマリは繊細な女性という印象があって、
シカマルは、時々、ちょっとずるくて、でも優しすぎるくらいに優しい男なんですよね。
私もいつか、こんな素敵な2人のプロポーズのお話、書けたらなって思います。
mimsさん、お言葉に甘えて、頂いてしまいました!