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休日、縁側で棋譜並べをしている時だった。
ふいに起こったつむじ風は、知った気配を伴っていた。

「いつでも、将棋だな」

舞い散る葉の中から現れたのは、風使いの忍。

「お前・・・ ・・・」
「祝い、もらいにきてやったぞ」

颯爽と微笑む彼女に、俺も調子を合わせる。

「取立てかよ」

テマリは楽しそうに鼻を鳴らしたが、すぐに表情を曇らせた。
予定外に、彼女がここにいるということは、今年も、誕生日を一緒に過ごせない、ということだ。

彼女の里は、俺たちのことを歓迎していない。
それ故この時期、支障のない限り、テマリの木ノ葉での任務は減らされるし、来訪しても同行者有り、だ。
それを彼女はひどく気にしている。

「不都合な彼女、で悪い」
「いいや、そんなことは気にしてねぇよ」

本心を伝えるけれど、彼女の返答は決まっている。

「止めたいのなら・・・ ・・・」

続く言葉を遮るのに、ずるいけれど俺は、いつも強引にキスをする。そうでもしないと、聞きたくないことを、彼女は平気で口にするからだ。俺の気持ちに負担を掛けない様に、ただ、微笑んで。
俺にとっては、会える日が“特別な日”なのに。

「いつも、言わせないんだな」

唇が離れて、テマリは呟く。

「聞きたくねぇから」
「・・・ ・・・それでも時々、言いたくなる」

見上げる瞳が語ろうとする言葉を、次は何で遮ればいい?



簡単だ。
自分の気持ちに正直にいさえすれば、いい。それが音になって、彼女の耳に届き、心に響けばそれでいい。拒絶の言葉を口にするなら、また、塞げばいいだけだ。



「奇遇だな」
「え?」
「俺も時々・・・ ・・・いいや、いつも言いたいことがあった」
「?」

将棋盤に手を伸ばし、同時にテマリの手首を取る。

「プレゼント」

瞬きをする彼女の手のひらに、駒をひとつ。下へと降りた瞳は、また同じ場所へと帰って来る。疑問符が浮かぶ翡翠の玉を覗き込んで、ひと呼吸。ゆっくりと唇を動かした。

「俺の、気持ち」

テマリの瞳が一段と大きくなって、さっと頬が赤みを帯び、それが俺にも伝染したみたいで、少し遅れて、頬が熱くなった。


「強気な、駒だな」
「ああ。だから後には引かねぇし、・・・ ・・・引かせねぇよ」






濡れる翡翠と、少し赤くなる鼻。
それを隠すように、テマリが顔に手をやったから、思わず胸に、抱き寄せた。

「面倒ごと、ばかりだぞ。これからも」
「そんなの、今更、だろ?それに『香車』は戦いには縁起のいい駒なんだぜ?」

俺の言葉に、テマリの笑い声が応えた。

「戦い、か。やっぱりお前は面白い。戦略が楽しみだ」
「るせーよ。泣いたり笑ったり、お前が一番、面倒くせ・・・ ・・・もう、黙れば?」

――それに、この“戦い”は、俺ひとりじゃねぇだろ?テマリ――



2008.9.16
2008.9.20加筆
2009.9.21ブログ版より再録


■あとがき■
テマリさんが手にしているのは「香車」の駒です。夕子さまいわく(頂戴したメールより抜粋です)「誕生日のプレゼントに将棋の駒って、あまりにも色気ないですよね(笑)けど、テマリならそこをつっこみながらも心から喜ぶんじゃないか・・・」の、この満面の笑み。これがキミにとっては一番のプレゼントだよね、シカマル?むふふ。
去年は長文のコメディでしたが、今年は素敵な挿絵を描いて頂いたので、小話にしてみました。以前から使ってみたかった駒ネタです。夕子さま、ご協力ありがとうございました!!
そして、テマリ嬢、奈良君、お誕生日おめでとう!!


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